財と商品

 えらく堅苦しい題で始めましたけれど、今回も実習付きの原稿なのでご安心を。とはいえまずは少し説明をば。「財が商品になるのは暗闇の中で跳躍するようなものである」といったのはマルクスだったか、どうか判然としないのですが(何しろ19世紀、人の文章を勝手に自分の文章の中に入れても平気の平左の時期。盗作で訴えられたアレクサンドル・デュマ(父)は「確かに筋は盗んだ。だか、オレの小説の方がずっと面白い」といって裁判に勝ったとか)。とにかく財は人間全般の役に立つ物、商品はある特定の人が何らかの対価(お金でもいいし、労働でもいいし、他の財でもいい)を払って手に入れたいと思う物。この二つの間には男と女の間以上に暗くて深い溝があり、おかげで世の中の経営コンサルト業が儲かるという仕掛けになっています。つまり、どんなに美味しいミカンであっても売れなきゃゴミになるという訳です。これが今の世の中の仕組みですし、本質的には結構公平な仕組みであると私は思っています(これがないと自分勝手な押し売り状態が蔓延する訳ですよ…「○○○に優しい」から「○○さんのやり方に従った健康にいいもの」だから、高くて当然まずくても文句言うなみたいにね)。

 ということで、今回は皆さんの手元にある(あるいはこれからできる)財を商品に変えるための魔法の方法…はあり得ないので、少しでも役に立つ方法を紹介したいと思っています。ただしこれは数多ある方法の中の一つにしかすぎないこと、世の中に万能薬も万能の方法もないこと、最後は自分でやるしかないこと。この三つは忘れないでくださいね。

 さて手元にある財は財ですから、何らかの形で人の役に立っているはずです。その今の役割をまず忘れましょう。そして新しい役割はないか、いろんなアイデアを出していきましょう。といっても、なかなか難しいことですし、頭の中で考えるだけでは何のことやら見当もつかないでしょうから、紙や付箋、筆記用具のある所にいる人は、それをそろえてください。紙が貴重な所にいる人はもったいないですから、できるだけ広くて平らな場所へ行って木の枝を筆記用具代わりにしましょう。例としてこの前奥谷さんから頂いたフローレス島のカカオ豆を使います。が、別にカカオ豆でなくても自分の目の前にある財を使ってかまいませんから、そこは適当に。それと1人でやるよりも、4~5人ぐらいでやる方が面白いので、仲間と一緒にやることをお勧めします。特に日頃くだらない冗談ばかりいって、人に迷惑をかけている大阪人みたいなのがいるとなおよろしい。

 まず第一番目にすること。「カカオ豆とはどのようなものか」を確かめる。…はい、そこでWikipediaに走らないように。目の間にカカオ豆があります。少なくとも財ですから食べて毒にはならないはずです。ということで、五感のすべてを使って確かめましょう(布とか葉っぱとか木でもですよ)。味覚(なめる)嗅覚(かぐ)触覚(さわる)聴覚(豆や葉っぱや木は互いに打ち付けたり、他のものに落としたり。布だったら振ってみたり)視覚(形態だけじゃなくて、何かに似ていないかとかもね)。これが終わったら、大きな紙の真ん中に(広場の真ん中に)カカオ豆 と書きます。で、五感で分けずに(ここがポイント)、感じたことを次々回りに書いていきます。似たような言葉が出てきたら、その言葉に続けて別の表現をしましょう。

←こんな感じです:ちょっと見にくいかな?

ここで出てきたものは、五感を使って見つけたカカオ豆からでてきた「何かになりそうな何か」です。つまりラム酒のような酒になるかもしれないし、化粧品とかクリームとか、薬になるかもしれない、飲み物でも大人向けになるかもしれない、アイスクリームとかお菓子とかのトッピングやお菓子そのものになるかもしれないということです。紙と付箋があると、付箋に同じ言葉を書いて、あちらの言葉、こちらの言葉にくっつけていくことができるので、やりやすいかもしれませんが、地面でやっても原理は一緒です。地面の方が消したり、足したりしやすい分、有利かもしれません。

 2番目にすること。現地の人がどのように使っているのかを確かめる。はい、これも実際にやってみましょう。調味料として使っているならどんな組み合わせで使っているのか。評判はいいのか悪いのか、自分で食べてみて日本人の味覚としてどう思ったのか…。日本人好みにするとしたら、甘くした方がいいのか辛くした方がいいのか、それとも別の調味料とあわせるのがいいのか…を考えてみましょう。もし現地では使われず輸出されているとしたら、どういう形態で最終商品はどうなっているのかを確かめておきましょう(このあたりでコンピューターを使うのは便利です)。

 3番目にすること。実際にやってみること。奥谷さんはカカオ豆を使って現地では作られていないサーターアンダギーを作ってみて、食べてもらっています。現地ではない習慣だけど、奥谷さんの頭の中ではカカオ豆からお菓子への線が一番最初に浮かんだか、もしくはそれが一番やりやすい方法だったからでしょう。ここはトライアンドエラーの段階です。とにかくやってみるのが一番。私だったら、ついこの間フライパンで作る簡単ナンの作り方を覚えた所なので、サーターアンダギーじゃなくて、カカオナンを作るかもしれません。おせんべみたいになるかもしれないし、ちょっとパンケーキ風になるかもしれないし、逆にまずくて食べられないかもしれない。まずくて食べられなかった時。そこであきらめないこと。何故「まずかったのか」を考えましょう。もうちょっと膨らんでいたら…と思うなら、膨らませる方法を考えます(一番簡単なのはベーキングパウダーです。とくに暑い所では。卵白を泡立てて混ぜる方法もありますが、暑いと泡立てにくいし、腐りやすいです。膨らませてうまく行くようであれば、逆に日本で加工するときに卵白を使って自然材料だけでおかしにするという方法も可能ですよね)。

 最後に絶対に考えてみてほしいこと。自分たちが作って売り出す商品は「誰が買うのか」。日本人向けなのか、現地の人向けなのか。それだけで味も違うし、価格も違ってきます。見た目の良さがものをいう社会と、それよりも安いのが一番という社会もあります。甘いの大好き!もあれば、ダイエットやら健康への効能やらを気にする社会もあります。誰によって商品の売り込み方、見た目、価格、全部違ってきますよ。高い方が売れる社会もあるってことも忘れずに。

 そして最終的にもう一度最初に戻って考えてほしいこと。自分たちが作った商品になれなかった財を商品にできないかです。奥谷さんからフローレス島では焙煎した後、さらに形の悪いもの、焦げたもの等々を除くピッキングをしていると聞きました。そのとき私の頭に浮かんだのが「文香」です。この頃ちょっと流行っている手紙に入れる良い香りのする紙が「文香」。飲料やお菓子の材料にならなくても香りさえ高ければ、そしてある程度の粉になるなら、フィリピンの手透き紙に漉き込んで「カカオの香り」の紙が作れないか。分厚くても文香なら問題ないし、大きくしか透けないのなら「一言カード」にしてしまえばいい。カカオの香り=チョコレート=元気が出るというのが定着しつつあるから、「元気出してね」とか「もうひと頑張り」「おつかれさま」なんて一言を添えて会社や学校で使うと良いんじゃないかな?なんて妄想です。そうそう、愛媛では選定したり、伐採しなくてはならないミカンの木をつかった「ミカンの器」があるんですよ。廃業するミカン農家さんの山にあるミカンの木を有効活用した商品です。うっすらとミカンの香りがいつまでもします。そういえばミカンの葉っぱも、揉むとミカンの香りが出ますよね…お湯につけたらどうなるのかしら??捨てるもの、用のないもの、むしろ邪魔になるもの(果物だったら摘果した小さなやつとか)。それをもう一度活かしてあげる道を考えてみましょう。自分たちの場所だけだったらできないことは沢山あると思います。でも、皆さんの強みはいろんな場所に仲間がいること。さっきの私の妄想ではフィリピンとフローレスが繋がりました。日本の中で、日本と日本の外で、日本の外同士で、皆さんのネットワークは広がっています。お互いが繋がったら、捨てるものが財に、そして商品になるかもしれません。そのための環境はチャンと用意されていますよね、昔と違ってインターネットという環境があるし、安い費用で移動することもできます(最後はものを見ないと分かりませんからね)。アイデアを交換して、ものを交換して、お互いの試行錯誤の結果を交換して、そうやって一杯一杯失敗してください。失敗する程、人は賢くなります(利口にはなりませんけど)。賢いというのは「何かをうまくやる」のではなく、「これから何ができるだろう」といつもワクワク考えていられるということだと私は思っています。そのためにも頭はなるべく柔らか~くしておきましょうね。若くても固い人、結構いますよ。

 ということで最後はゲーム。5×5の升目を作ります。升目の真ん中にお題を出す人が言葉を一つ書き込みます。その言葉から連想する言葉を制限時間(10分ぐらいかな)でいくつかけるかを競争!

簡単ナンのレシピ

強力粉300グラム

薄力粉300グラム

ベーキングパウダー大さじ1/2程度(やや多めでも可。要は膨らみ具合なので好みの膨らみ具合を見つけてください)

砂糖と塩を小さじ1程度

全部ふるってボールに入れる。

ボールの真ん中にぬるま湯(300cc)を入れて、粉とよく混ぜて練る(全部が一塊になるまで。なかなかまとまらないようならここでぬるま湯を少しず追加する)

6~8にわけて、麺棒等で均一にのばして、オリーブオイルを塗ったフライパンで5分、ひっくり返して3分。

8個が適量のレシピなので、半分量でやってみてもいいと思いますよ。発酵させないので、気軽にアバウトに作っても結構大丈夫です。