松⼭⼤学経済学部教授 松井名津
起業塾といっても校舎があるわけではない。当初から決まったカリキュラムがあるのでもない。全ては実戦から始まり実践で終わる。ただし⼀⼈が実践から学んだものは、全てのメンバーに共有され、議論され、何かしらの「理論」に還元される。ここでは会計講座でさえも、机上の理論だけに終わらない。複式簿記を学んだら⾃分たちの活動やビジネスを記帳する。記帳ができたら、出来上がったバランスシートや損益計算書から⾃分たちの現状を把握する講義が待っている。
すべての講座には具体的な「何のために、なぜ」がついている。だから単なるスキルアップのための専⾨学校ではない。スキル、例えばプログラミング、ビデオ編集、エクセル、フォトショップ…こういったスキルを⾝に付けるのは最低条件でしかない。ここで常に問われるのは「スキルを使って何をするか」「⾝につけたスキルをどう役⽴てるか」だ。「どう役⽴てるか」の中には⾃分の将来のためも⼊っているが、コミュニティのためも⼊っている。例えばフォトショップを使って仲間のe-コマースのための写真を加⼯するというのも⼀つの例だ。さらにステップアップすれば、他のコミュニティのメンバーのために⾃分のスキルを教えるという段階が待っている。その過程で⾃然と次のビジネスが⽣まれる。この起業塾にとって起業も⼿段の⼀つに過ぎない。⾃分が⾃⽴して⾃由に⽣きるための⼿段だ。そして⾃分が⾃⽴し⾃由に⽣きるためには、⾃分が⽣まれ育ち、これから⽣きていくコミュニティもまた⾃⽴し、⾃由でなくてはならない。だからこそミャンマーのメンバーはe-learningカフェを必死になって運営している。カンボジアのニューやノーはクッキー作りの技術を⾝につけ、プーンアジのメンバーに共有している。インドネシアのユダくんやクリスはITスキルを教え、アプリを作る。ネパールのアリヤはカンボジアの⽣徒の英⽂原稿を添削している。アジアと起業塾では、ネットを駆使した「学び合い・教え合い」の絆を太くしていきたい。この試みに⽇本の中⾼⽣が加わってくれているのが何とも楽しみだし、頼もしく感じている。