モンドラゴン協同組合創始者の思考とCWBの挑戦

学生耕作隊理事 奥谷京子

 今年になって山口にいるブルーノさんと毎週 l回会議を行うことになった。彼はスペイン人で日本語 1級を取り、メーノレを送るのも仕事で会話することも何ら問題がない。しかし、早い展開の議論や抽象的な言集を理解するのは大変だ。日本語を読むよりも英語で理解するほうが楽ということで、私が英語で解説を入れたりしている。彼がこの 1年くらいリサーチを進めているスペインのバスク地方にあるそンドラゴン。そこで次々と協同組合が生まれ、スペイン国内で、有数の企業になったものもある。前から彼のレポートは目にしていたが、改めてこれまでスペイン語原文を英語に訳したレポートを全部読んでみた。さらに知りたいと思って『バスク・モンドラゴン協同組合の町から~(石塚秀雄著、彩流社)という中古本をネットで取り寄せた。

 ホセ・マリア・アリスメンディアリエタという聖職者がそンドラゴン協同組合を立ち上げた。そこには 10の基木原則がある。①自由加入、②民主的組織、③労働の優越(労働が自然、社会、人間を変革する基本的な要素。賃金労働者を原則として雇用しない、社会のすべての人が仕事につけるように雇用拡大を目指す、など)、④資本の道具的・従属的性格(資本を企業の発展のための道具として労働に従属するものとみなす)、⑤管理への参加、⑥給与の連帯性(協同組合の実情に応じた十分な給与)、⑦協同組合の間での共同(協同組合間の人事異動など)、⑧社会変革、⑨国際性、⑩教育というのを掲げている。協同組合が資本主義を乗り越えて新しい体制を作れるかどうかについては、労働者階級が団結しなければならないと彼は述べるとともに、同時に資本主義との共存も受け入れなければならないことも述べている。こうして「新しい体制Jのために、協同組合における教育は、協同組合が硬直しないこと、社会変革を目指し、自治社会へ向けた教育を進めることだ、と。これらを読むと、まさに我々CWBが目指すところにシンクロする。齊藤さんの文章の中にもあったが、形だけの協同組合ではなく、活力ある協同組合をどう維持するか。そこに教育がある。モンドラゴンの協同組合には利益の 10%は教育投資に回すというルールもある。職業訓練から始まった大学を持ち、技術習得に加えて創始者アリスメンディの精神に若いうちから触れる。協同組合としては即戦力になる人材を育て、この仕組みが途切れることがない体制を作っている。さらにはバスク語や文化を守ることまで力を注いでいる。文化の社会化、知の社会化こそが労働者が権力の民主化から勝ち取る道なんだというところに繋がる。「創造し、所有せず行動し、私物化せず進歩し、支配せず」という彼の印象的な言葉にも魅かれる。

 そこから 70年経った今、工業化を中心に据えていたところはモノ作りからコンテンツの時代へ、さらにはインターネットで国を越えて協働で・きる変化こそあるものの、行き過ぎた個人主義は未成熟な社会であり、権力・派閥ではない民主的なつながりが求められている。ブルーノさんとの会議で、「なぜこれからは協同組合か」と議論した。協同組合が働いている人の自立・自治の教育機関となり得るかが問われる。自立自治を目指して参画することに魅力を働く人が持てるか、その自主性にかかっている。仕組みも大事だが、そこに集う一人ひとりの意識変革こそが求められる。また、ライターの坂本さんが聞き取りインタビューするミャンマーも今の抑圧された状況が嫌で、必死に抵抗し、自分たちの力で立ち上がっている。自分たちで、責任を取って自由を獲得する。平和や自由は闘いなのだ。しかし、どうも日本はいろんなことに直面しても現状維持、責任回避、波風が立たないように見ざる、言わざる、聞かざるになっていないだろうか。世界の情勢だけでなく、日本も非常事態であることに早く気づいて、災害時に発揮した「助け合い精神を一人ひとりが当事者として持ち寄り、事態に向き合う時が来ているのではないだろうか。