CWBカンボジア 奥谷 京子
数か月ぶりのカンボジアだったが、今回はその中でも楽しみの1つはカンボジア唯一の少数民族と言われるクイのコミュニティを訪問したことだ。口伝で高度な製鉄方法を信頼のおける人にのみ受け継がれたという歴史があり(しかし、残念ながら第二次世界大戦の頃に安い鉄が手に入ってから伝承も消え、今はもう誰もできないという)、さらには焼き畑をして森を移住しながら生活をしていて、森にある自然の恵みや日本でいう伝統野菜のような地元にしかない種を繋いできて、プラスティックを使わずに自分たちでかごを編んだりしているという話を聞いており、とても興味があった。
実はこのコミュニティで無農薬、無化学肥料で栽培するカシューナッツ農家からも仕入れて我々は加工して日本に輸出している。実際どういう人たちが携わっているかを見に行くのも今回のミッションだった。
噂に聞くクイの人々に勝手に “森の民”のイメージを持っていた。しかし、実際は普通に国道沿いに建つ高床式の家に住んでおり、若いリーダーたちは本当に子育てにも熱心な20~30代の男性たちで、服装も普通。これは大いなる勘違い。
そしてここにも現代の生活の波は押し寄せている。さすがにプラスティックがゼロではなかった。しかし、伝統的な暮らしを守り続けていることは確かである。薪のコンロだったり、野菜などを混ぜる臼や棒はかなり年季が入っている。そして食材に関しても彼らは原種のトウガラシを庭で栽培しており、それを必要な分だけ使う。黒ゴマを炒って潰して塩と混ぜてゴマ塩を常備する。それをプロホックという魚の発酵食品に混ぜて、野菜のディップソースを作ったり、黒米を入れたモチモチのご飯に振りかけたりするのはまるでお赤飯のようだ。日本だとお菓子とかにも使うんだよというので、スマホでいくつか写真を見せたところ、へぇ~と興味津々。そこから日本との比較議論だ。私たちはコミュニティ全体で100人以上が集まり、建築祝いや結婚式なども祝う。都会だとうるさいと言われるけどカラオケも下手な人が歌ったらみんなで笑うだけだよと底抜けに明るい。日本もカンボジアも「ほら、もっと食べて。これも持って行って」と勧められ、田舎のお母さんは万国共通いいなぁとつくづく思う。
この人たちともっと関係性を深めるためには、今度は私が何かを返さなければならないと直感的に思った。それこそデン君もこの地域によそ者を連れていく意味が出てくる。そこで、プーンアジに戻ってから生徒のいない午後の時間に試作に取り掛かった。黒ゴマクッキーは焼き上がりが若干固くなった印象はあるが、デン君も含めて試食してもらったら「今度カシューの買い付けに行った時にこれをコミュニティに持って行ったらきっと驚くよ」と言ってくれた。彼らとの関係性で何か前進できる材料の1つになるのであれば幸いだ。日本に持ち帰ったゴマでもいろいろ探ってみようと思う。
今度はその試作のクッキーをプノンペンの新ビル事務所Chnai Market(挑戦市場)のスレイリャックに届け、カンボジアの都会の人たち向けに売れないかを考えようと思っている。やはりクッキーの固さや味にはもう少し工夫が必要そうだと彼女も感じたようだが、早速レシピは教えたので、自分で作ってみると言っていた。また、カシューバターを使ったクッキーも一度作ってみたいと新しい商品を作ることに意欲的だ。
こういう何かが始まる時に立ち会えるのは楽しい。カンボジア国内でも私たちは田舎のものを都会に紹介するというマーケットを広げる一歩が始まった。まだまだカンボジア人たちには値段が高いからと敬遠されることも多いようだが、プノンペンに住む外国人にじわじわと広がっているようだ。私たちには黒ゴマもカシューナッツも直接生産者とつながっているストーリーがある。どんな人が作っているか、カシューナッツのあの形にまでするのにどれだけの工程を経るのかを知っている。これは何よりの強みだと思う。上手にこういうものをアピールしながら広げられたらと思う。