CWBカンボジア 奥谷京子
私が今年2月にプンアジを訪れた時点から来日ツアーに向けて本格的練習が始まった。最初に見たのは、音入れ。日本には大きな楽器を運んだり楽団を全員招くことが難しいので、事前にみんなで演奏・歌を録音し、それを会場で流すことにしている。現在、カンボジアでも上演している「アツ物語」は1時間を超える大作なので、それを日本向けに30分に短縮するため、どこを削るか、この部分は絶対に入れるなどの念入りな打ち合わせが行われる。この写真からわかるように、太鼓(スコー)のほかに二胡(トゥロー)や琴(ターケー)のような楽器もある。そしてプロの歌い手さんも来てくれたが、こんな細い女性のどこから声が出ているのかというくらい楽器に負けないくらい通る声で歌ってくれている。
そして来日するメンバーに関しても、今回、簡単ではないのはみんなと合わせて上手にダンスが踊れたらいいだけではない。それは「アツ物語」のほんの一部で、演劇がメインだ。カンボジア版ではもっと多い人数で男子学生がアツ役を演じているが、今回は女子学生のみが参加するので、アツ役をやるのもコムジエンという女の子。いきなり主役に抜擢されているので、セリフや感情のつけ方なども含めて1から覚えなければならない。村の娘の恋人役のソクユエも男役、それから村長役もスレイマウ。プロのダンサーでもあるミーさんが舞台の端で一緒の動作をやって背中で見せている。
滞在中に「劇中の役に人が足らない」と脚本を手掛けたMr.Diから相談を受けた。なので、引率する日本人の大学生のボランティアがなんとアツのお父さん役を演じることになった!そこも日本とカンボジアをZoomで繋いで3月のうちに事前練習をし、来日したところで一緒に練習もしてみる。こうやって、役どころも練習も国境を越えて、合作で行おうとしている。
●エスニックと多様性を
そして今回はソポンさんがクイのことを話してくれる。国民や世界が分断しようとする今、インドネシアの独立の国是でもある“Bhinneka Tunggal Ika(=Unity in Diversity・多様性の統一)”が大切だ。今回のアサの文章も自分たち少数民族の誇りを綴っている。対立するのではなく、互いに理解していくことをもう一度考えさせられる。平和は武器をおろして戦うことをやめるだけではなく、違いを認め合うことだ。クイはいろんな独自の慣習(言葉、料理、農法など)があり、それはSDGsという言葉を知らなくても遺伝子レベルで実践している。しかし、それが大都市のように近代化していくことが発展だという迷信で失われつつあるライフスタイルをどのように守っていくか、これは過疎化で季節に応じたその土地独自の暮らし方を取り戻せなくなった私たち日本人への大きな学びとなるだろう。
いろんな準備が始まり、いよいよ4月2日から日本公演はスタートする。どうぞお楽しみ