CWB 奥谷京子
何年ぶりだろうか、久しぶりにヨーロッパに足が向いた。アジアを軸に置いてから離れていたのだが。年明けに知り合いのドイツ人が結婚すると聞き、ぜひ9月の式に参加したいと思ったからだ。春にはチケットも手に入れ、着物も洋服感覚で着られるようにと起業家にも着方を教わり、行く気満々だった。しかし、8月にカンボジアでパスポートを紛失して再発行が間に合わず、日程を振り替えての訪問だったのだ。
その家族にお祝いを持って行く以外には特別な目的もなく、春先から夏場のヨーロッパは何度か訪れたことがあるが、寒い時期にはない。アジアの暑いところで活動している身としては寒いのはどうも億劫だったのだが、車窓から見える紅葉が美しく、どこを切り取っても絵になる。この時期に訪れてよかった。1日5~10キロ歩き回って、とても充実した1週間を過ごせた。
大学時代にドイツ語の同じクラスで勉強していた友人と再会したり、8年前に来日したドイツ人ジャーナリストにも再会できていろんな話ができたし、知人のドイツ人の家はオーガニックの酪農家なので、食品表示について尋ねてみたり、一人の時はひたすらオーガニックのスーパーなどを探してカシューナッツの加工品がどれくらい売られているのか、ビーガン事情などを見てみたり、今の仕事に関連するリサーチもいろいろできた。また、飲料ボトルのリサイクルの仕組みに関してはCWBのアジアメンバーに役立つだろうと思って、それも取材した。
折しも日本が世界のGDPの順位もドイツに抜かれ、一体何が違うのかというところも実は興味があった。
今回行ってみて、ドイツと日本はよく似ているところもある。例えば、高齢者の多さ。カフェに入っても高齢者の団体も多いし、日本と同じくみんなお元気だ。それから現金信奉も根強い。もちろんクレジットカードを使っている人もいるが、スーパーで買い物をしているのを見ると7割くらいは現金で払っていると思う。そしてアジアでは主流のQRコード払いは見かけなかった。そしてジャーナリストに聞いたのは、パンデミックが明けて、飲食店での人手不足が深刻なのだそうだ。
以前従事していた人たちはどこにいるんだろう、と。日本も飲食店はいつも募集のチラシがあるし、ホテル業もだよと言ったら、彼女もうなずいていた。介護の仕事はベトナム人も日本を選ばずにドイツのほうが賃金が高いので結構行っていると聞いたのだが、ミュンヘンや郊外にはまだそこまで外国人ワーカーを入れている感じはなかった。アジアのスーパーも増えているが、やはり気候や食文化の違いは大きいのかなという印象だ。
私が30年前にミュンヘンに語学を勉強しに行った時と6年くらい前に再びミュンヘンを訪れた頃も雰囲気が変わり、観光客だけではなく生活する人たちも外国人が多いと強く感じた。中央駅周辺はアフリカ系やシリア難民を積極的に受け入れていたので中近東の顔立ちも目立っていた。今回はさらにインド人も多くなっている印象がある。
そしてアルプスに近くて壁に美しいフレスコ画が描かれていることで有名なガルミッシュ・パルテンキルヒェンは中近東の国々のセレブや王様が別荘を持っていたり、治療で長居をしたりするそうで、お金持ちが集まり、物価が急上昇している場所なのだそうだ。よそから来て家を買おうと思ったら100万ユーロ(1億6千万円)は軽く超えるという。ちなみに車の値段を聞いたら、フォルクスワーゲンだったら60万ユーロ(960万円)くらいするそうで、BMWとかはもっとすごいと言っていた。
食べ物については、夜ご飯で出てきたお肉などは15ユーロ、ビールを飲んでだいたい3,000円とかそれくらいの感覚だし、乳製品は安いので、食生活に関してはすごく高いという感覚はなかったのだが、ホテルも安くはない。ドイツに着いて日が暮れて暗くなるのも早いし心配だったのでフランクフルト中央駅前周辺をとろうと思ったら2万円は当たり前だったので、空港から反対方向に30分電車で行ったマインツにした。ちなみにオクトーバーフェストの頃はミュンヘン周辺のホテルは4万円以上10万円のところもたくさんある。大型都市よりも中堅どころのほうが治安もいい。
しかし、日本のビジネスホテルのような機能性やおまけサービスは全くない。パジャマもついていないし、歯ブラシセットや入浴剤などを選択できるアメニティコーナーもない。お湯を沸かすポットがないところも結構ある。ドライヤーはあるが、モーターの音だけが大きくて風量の少ないものもあるし、コンセントはユニバーサルではないし、USB用の穴もない。Cタイプの変換をもっていかなかったら、何も充電できなくなっていた。手洗いのソープとシャンプーは備え付け。そんなところで1万5千円くらいは当たり前にある。
そう考えると、日本は朝ご飯のバイキングも充実して、毎日メニューが変わり、今のユーロの強さからすれば半額くらいの値段で泊まれたら、外国人から見れば驚きだろう。過剰すぎるサービスに対して価格転嫁が追い付いていないのを強く感じる。しかし、無料サービスで大盤振る舞いではなく、最小限でも十分なことはいくらでもある。例えばアメニティを取り放題にすれば、1つずつパッケージされているものからもゴミも出るし、結局余計なものまで欲張って取って無駄にしてしまったりと、良いことばかりではない。日本の水はどこでも飲めるのだから、何も部屋にペットボトルをわざわざ用意しなくてもよいわけだし。コテコテにせずにもっとシンプルでよいのではないかというのが一番印象的なことだった。
とあるお店の中国人の店員と話していたら、コロナが明けて中国人も何でも欲しいというマインドから熟慮して取捨選択する人が増えているとも聞いた。確かに昔ほど爆買いして飛行機に乗る姿も関西空港でもなくなった。それもいいことだと思う。より熟慮して選ばれたものに納得した対価を払ってもらうために、本来の価値の高さ、現地でしか味わえない貴重な経験など、そういうものが世界の中で選ばれていくことなんだろうなと思う。高い技術、それをきちんと裏打ちする説明が“独立して”きっちりできている。
ドイツ人のジャーナリストが過去の歴史からドイツのジャーナリズムはとても独立性を担保してどこかの勢力に偏重したりしないように厳しく監視されていると話していた。食品表示1つにしてもいろんな情報が載っている。栄養価が5段階に評価されたり、動物福祉という観点でどういう場所で飼育されているかということ、ビーガンか、BIO(オーガニック)かなど。生産者側はお金を払わないと資格が維持できない点では我々のように弱小のグループを守るためにフェアトレード認証自体に反対するという運動要素も確かに大事だ。大量に流通するために条件が変更になるのも許せない。直接つながっていれば本当はこういう認証も必要ない話なのだから。しかし、いろんな国の人が住んで宗教上の理由から食べられないものがあるなど、ユニバーサルになればなるほど、誰もがわかる可視化というのも大事な要素だ。ここは島国である日本がとても遅れているところだ。原料が上がったから仕方なく値上げではなくて、より価値のあるものを胸を張って作り、売るという姿勢が大事なんだということを今回改めて学んだ気がする。