見逃せない、イスラム金融の考え方

CWB 奥谷京子

イスラム教徒というと、私たちの日常とは関係がないと感じる人が多いと思う。日本という島国は世界の中でもイスラム教徒の割合が極端に少ない稀有な国だからだ。しかし、世界全体を考えると、イスラム教徒は着実に増えている。砂漠のある中近東だけの宗教ではない。ムスリム人口の統計によると、国別でいうとインドネシアが一番多い。インドも多い。アフリカの国々も多い。勢いがあり、出生率の高い国にイスラム教徒が多いのだ。

2015年の日経新聞の記事によると、2010年のキリスト教徒は約21億7千万(全人口の31.4%)、イスラム教徒が約16億(23.2%)。同じ条件でこのまま続くと、2070年には割合が拮抗し、2100年にはイスラム教徒が35%を超え、キリスト教徒を上回る勢いだという。そうなると、イスラム教の考え方をベースとした社会の仕組みを理解し、取り込んでいくことが当たり前の世の中にがらりと変わるかもしれない。神からの啓示、神そのものの言葉を「クルアーン(コーラン)」にまとめ、創始者ムハンマドの規範をまとめたものが「スンナ」、そして「イジューマ」「キヤース」という4つの法源があり、さらにそこから「シャリーア」というイスラム法が生まれる。六信(信ずべき6つの信条:アッラー・天使・啓典(クルアーン)・預言者・来世・定命)五行(信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼)も有名だ。

私たちCWBのグループは実はかなり前からイスラム金融に注目をしていた。シャリーアに適合した金融がイスラム金融で、利息を取らないという特徴をご存じの方も多いだろう。すでにイランやパキスタンではすべての銀行が無利子だそうだ。私たちもお金を持っているだけでお金を生み、富む人はますます富む、格差がますます広がるマネタリズムに限界があり、いつかこの仕組みが破綻すると思っている。

ところがお金を利息で増やす以外にどうお金を増やすのか?積極的に地域にお金を使うことがカギになる。一緒にリスクをとってお金を出し、成功した時にはみんなで喜びを分かち合って分配する。今回は『世界を席巻するイスラム金融』(糠谷英輝著、かんき出版)から引用させてもらいつつ、イスラム金融について紹介していく。読んでいけばいくほどに、今までCWBでやっていた活動にとても共通点を感じるのである。

〇イスラムの4つのスキーム

預言者ムハンマドは商人の子でメッカは商業が盛んな町だったそうだ。その中でいかにお金を動かし活気を作るかという生活と宗教の下でのルールが融合していく。金利で稼がない代わりに4つのスキームがある。

  • ムラーバハ:銀行が顧客に変わって商品を購入して、購入価格に銀行のマージンを上乗せして顧客に売却するというスキーム。イスラム金融の資金運用手段の7割がこのムラーバハにあたる。
  • イジャーラ:リースの仕組み。シャリーアではモノの所有には、所有権と用益権の2つから成り立つと考えられており、用益権を銀行から移転する契約のこと。長期資金調達に利用されることが多い(住宅や車のローンはここにあたる)。
  • ムダーラバ:信託のような仕組み。銀行が顧客から預かったお金をプロジェクトに投資し、利益を決められた割合で配分を受けるスキーム。銀行はプロジェクトの運営・管理には一切干渉しない。
  • ムシャーラカ:共同出資のような仕組み。こちらは銀行も共同出資者としてプロジェクトの運営に参画する。ムダーラバに比べてより長期的なプロジェクトに使われるスキーム。

〇日本のマインドは真逆であることに注意!

お金を動かさないことはイスラムの世界では「退蔵」(動かさずに隠し持つ)と思われるのである。その価値観からすると、多くの日本人は銀行に置きっぱなしの、退蔵だらけだ。この本の中では、“ハイリスク・ハイリターン”というのが強調されているが、これは「日本人の感覚からすれば」ということなのだろう。お金を持っていないと将来が危うい、残れば子孫のためにと考えるからこそ、成功すればリターンも高いが、失敗したらその分のお金はなくなることに恐怖を感じるからこそハイリスクと私たちは捉えるのである。

しかし、最初に記述したイスラム教の六信五行を思い出してほしい。六信には「定命」というのがある。神が定めている運命だと受け入れる力がある。また「喜捨」という貧者の救済という視点がある。彼らの感覚では、きっと貯め込むよりも生かす、貧しくても助けてられるコミュニティの力がある、お金の流動性に意味があると感じているのではないだろうか。

日本はゼロ金利。預けていても事実上利息が付かないので、実態が無利息のイスラム金融と同じようなものだ。退蔵ではなく、どう生きるお金にするか。

CWBはアジアの国々で期せずしてイスラム金融のようなスキームでコミュニティビジネスを推進するために投資をしたり、お金を活かしてきた。ミャンマーの活動実績を次ページで樋口さんから紹介してもらう。