CWB 奥谷京子
ご縁というのは不思議なものだ。2018年に南インドのマンガロール大学でネパールのアリヤさんをはじめ、CWBメンバーが社会起業に関して紹介をしたのを聞いていたヴェンカテシャさんとはSNSで繋がっており、ウェビナーでゲストとして一度お話もさせていただいたこともあった。
その彼が、今回本を書くので書評を書いてほしいという連絡が来て、この社会起業のムーブメントをインド、そして世界へと発信していきたいのだろう。
――『Seed of Change』には、社会起業家の成功事例が50件紹介されており、外国人にとっても非常に分かりやすいです。とても励みになったので日本語に翻訳したいと思います。 私たちは分断の時代に生きています。国家は他国と戦います。しかし、影響を与える人たちだけでなく、市民も国境を越えて地に足を着いて(心を開いて)、草の根からパラダイムを変えていく必要がある。新しい世界を作ろう!
ここに載っている事例には映画にもなって日本でも知られているものもある。このような成功事例を踏まえて、自らの手でどれだけ育て、作っていけるか、だと思う。ちょうどスリーダラー教授が現在、ITで有名なバンガロールの新しい大学で社会起業家研究所のようなものを作りたいという話が出て、準備を始めている。
かつてマンガロール大学に行った時に大学に通う生徒はいわば人口の数パーセントでエリート意識が強い。しかし、階層意識が根強くあり、ソーシャルニットワークプロジェクトのスジャーナさんと一緒に編み物を練習していたら、毛糸のくずなどをあっさり床に落とした。わざわざゴミを作らなくても…と思って「こんなのはまとめてゴミ箱に捨てたらいいじゃない?」と指摘すると、「これも清掃する人たちの仕事づくりです」と女子学生がぽろっと発言したことに驚いた。
これでは地域の人々と同じ目線に立って何かを始めるのは簡単ではないかもな…と感じたことがある。しかし、大学に行くチャンスを得ていろんな情報を持っているからこそ、世の中の難しい課題解決に若いエリートはチャレンジをするという息吹が生まれたらと願っているし、CWBも一緒に推進していきたいと思う。この1冊が社会起業に関心が増える人々がインドだけでなく、世界に増えることを願っている。
今年はこのインドの社会起業をシビルミニマムでも連載で紹介していきたいと思う。
思いやりのレガシーを繋ぎ合わせる
インドの社会経済が織り成す複雑な風景の中で、アンシュー・グプタは仲介人のプロとして、都市部の過剰なニーズから農村部のニーズまで、慈愛のレガシーを繋ぎ合わせている。ウッタル・プラデーシュ州の中流階級の家庭に生まれたグプタは、大きな野望と変革に満ちた物語として展開される。グプタはメディア・インターン時代に、インドの農村部の恵まれない人々の厳しい現実、特にまともな衣服も着られないことに直面した。この発見により、彼の人生の使命、そして原動力となっていった。
グプタが設立したNGOのGoonjは、彼のヴィジョンを実現するための器となった。グプタは、インドの都市部で余っている資源を、農村部の人々の満たされていないニーズへと導くパイプ役を担っている。グプタが中古品、特に衣料品の再分配に力を注いでいるのは、より公平な社会を作ろうとする彼のコミットメントの証である。
Goonjの影響は、日常的なチャリティをはるかに超えて反響を呼んでいる。グジャラート州、タミル・ナードゥ州、ケララ州での自然災害の後、グプタと彼の組織は希望の光となった。グプタの救援・復興活動は直接的な被害を軽減するだけでなく、アショカ・フェローシップや社会起業家賞など、名誉ある賞も受賞している。
グプタのリーダーシップの下、Goonjは衣服だけにとどまらない。地域社会の進化するニーズに適応し、ダイナミックな変化をもたらしている。グプタのヴィジョンは再生可能エネルギーの領域にまで及び、低所得世帯に持続可能なソリューションを提供することを構想している。この画期的なプロジェクトは、Goonjの影響力の視野を広げ、進歩と自給自足への道を照らす。
グプタが物語を紡ぎ続けるにつれ、この物語は単なる社会起業家精神の物語ではなくなっていく。それは思いやり、レジリエンス、そして溝を埋める勇気を持った男の不屈の精神の物語である。グプタはGoonjを通して、思いやりの糸が地域社会を結びつけ、都市と農村の二項対立を超えた物語を紡ぎ出している。
グプタの手にかかれば、チャリティはエンパワーメントの物語へと変貌する。グプタの旅は、一針ずつ変化を生み出す人間の精神力についての深い探求である。Goonjという織機が動き続けるなか、アンシュー・グプタの物語は、彼の人生の証としてだけでなく、より思いやりのある公平な世界へのインスピレーションとして響いている。WEB> https://goonj.org/
ミラクル・クーリエ エンパワーメントの人生
活気あふれるムンバイの中心で、声なき人々の静かな闘いとぶつかり合いながら、ドゥルヴ・ラクラはミラクル・クーリエを通してエンパワーメントの物語を作り上げた。
ヴィジョンを持った社会起業家であるラクラの人生は、宅配便サービスを営むという意図だけでなく、インドの聴覚障害者コミュニティの機会を再定義するという意図から始まった。
2009年1月に設立されたミラクル・クーリエは、単なる宅配サービスではなく、インクルーシブとエンパワーメントの象徴である。このアイデアは、ラクラがムンバイのバスの中で、定期的なアナウンスにもかかわらず、耳が聞こえないために移動することができない少年に遭遇した、痛切な瞬間に出会ったことがきっかけとなった。この出会いは、聴覚障害者が直面する課題を見過ごしがちな世の中で、聴覚障害者コミュニティが直面する無言の闘いを実感するきっかけとなった。
ミラクル・クーリエの種はこの意識から発芽し、ラクラは聴覚障害者とろう者の間のギャップを埋める行動に出た。ビジネスと社会セクターの両方における学識と経験を生かし、彼は聴覚障害者に有意義な雇用を提供できる営利目的の社会事業を構想した。
聴覚障害者の視覚的な洞察力を理解していたラクラは、彼らは視覚がスキルとして活かせる強みと最低限の言語的コミュニケーションで成り立つ宅配便事業を選んだ。
3人の従業員から始まったこの事業は、今では50人以上の従業員を抱えるまでに成長した。市内に2つの支店を持つミラクル・クーリエは、50社以上の企業から毎月75,000件以上の配達を請け負っている。
ミラクル・クーリエは、ビジネス領域における単なる成功物語ではなく、社会変革と認知の道標なのだ。ラクラと彼のチームによる卓越した活動は、ヘレン・ケラー賞、エコイング・グリーン・フェローシップ賞、インド大統領自らが授与する障害者エンパワーメント国家賞など、名誉ある賞を受賞している。
ミラクル・クーリエは、数字や称賛にとどまらず、聴覚障害者コミュニティに機会を創出するというラクラのコミットメントの証でもある。共感とヴィジョンを原動力とする社会起業家が、いかにして生活を向上させる持続可能なビジネスを生み出すことができるかを示す模範となっている。会社の成長は、単に出荷量で測られるのではなく、ミラクル・クーリエを通じて目的と尊厳を見出した聴覚障害者の従業員一人ひとりの静かな勝利で測られる。
ミラクル・クーリエは、一見平凡に見えるサービスが、いかにして障壁を打ち破り、より包括的で思いやりのある社会を育む、変革のための並外れた力となりうるかを示す、輝かしい例であり続けている。
ドゥルヴ・ラクラの人生は、単なる起業家精神の物語ではなく、エンパワーメントの物語であり、すべての配達が荷物だけでなく、より良い、より公平な未来の約束を運ぶことができることを証明している。
WEB:https://www.miraklecouriers.com/
部族の権利を擁護し、コミュニティに力を与える
インドの多様な風景の中で、ハヌマッパ・スダルシャンは部族の権利の献身的な擁護者であり、コミュニティのエンパワーメントの影響者である。
1950年12月30日、カルナータカ州イエマルールに生まれたスダルシャンの人生の歩みには、インドの部族民の幸福と向上に対する深いコミットメントが反映されている。医学の専門家として研修を受けたスダルシャンは、バンガロールの医科大学を卒業後、思いがけない方向へと歩みを進めた。ラマクリシュナミッションと手を組むことを選んだ彼は、従来の医療の枠を超えた使命に乗り出した。カルナータカ州の緑豊かな野原から、そびえ立つヒマラヤ山脈まで、スダルシャンの人生は、国の隅々にまで医療サービスをイニシアティブに展開した。
スダルシャンのヴィジョンは医療ケアにとどまらず、社会から疎外されがちな部族コミュニティにも及んだ。1980年、彼はカルナータカ州の部族集団の総合的な発展に焦点を当てたヴィヴェーカナンダ・ギリジャナ・カルヤナ・ケンドラを設立した。この取り組みは、医療にとどまらない変革の始まりとなった。さまざまな部族が暮らすカルナータカ州チャマラジャナガル地区は、スダルシャンの仕事の中心となった。
スダルシャンの努力は医療施設の提供にとどまらず、部族コミュニティの教育、生計、技能の向上にまで及んだ。この包括的な開発アプローチにおいて、スダルシャンは地域の生態系の保全にも同じように重点を置き、伝統的な慣習と現代科学の調和を生み出した。
彼の組織であるカルナ・トラストは、このヴィジョンをカルナータカ州だけでなく、アルナーチャル・プラデーシュ州にも広げている。
部族福祉に対するスダルシャンのコミットメントは、タミル・ナードゥ州、カルナータカ州、アンダマン・ニコバル諸島、アルナーチャル・プラデーシュ州の部族の生活に消えない影響を残しているヴィヴェーカナンダ・ギリジャナ・カルヤナ・ケンドラ(https://vgkk.in/)という組織を通して、さらに顕在化している。
部族の若者たちが率いるこの組織は、学校、職業教育トレーニングキャンプ、ヘルスケアセンター、意識向上プログラムを通じて、ホリスティックに充実することに重点を置いている。
スダルシャンの貢献が注目されないことはない。パドマ・シュリ賞、ライト・ライブリフッド賞、社会正義のためのマザー・テレサ賞など、名誉ある賞を受賞している。マハトマ・ガンジーとスワミ・ヴィヴェーカーナンダ(ヒンドゥー教の改革者)の理想にインスパイアされた彼の謙虚さと献身は、社会奉仕に捧げる生き方に反映されている。賞賛にとどまらず、スダルシャンの人生には深いメッセージが込められている。彼の活動は、寛大な行為としてではなく、本質的な責任として、部族社会の声に耳を傾け、向上させる必要性を強調している。彼のたゆまぬ努力によって、スダルシャンは身体を癒すだけでなく、不当に沈黙させられている人々の力強い代弁者となり、より包括的で公平なインドを提唱している。
WEB: https://www.karunatrust.org/